『風立ちぬ』

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8月12日。

妻とふたりで出かけた。
映画館なんて、第一子妊娠前以来なのでもう何年ぶりだろうか。
チケットの買い方も、スクリーンの大きさも忘れていた。


『風立ちぬ』

黒川さんの奥さんの台詞。そしてあのラストシーン。思わず息を飲んだ。
風のように美しく、愛おしさに溢れた映画だった。




「あの時代」ーーーそう呼ぶしかないくらい、その時代のことをぼくは知らない。実感としてはもちろんのこと、知識としても、語り継がれた物語としても、ほとんど知らない。同じ国なのに、まるで別の国で起きた出来事のように、断片的な情報でしか、知らないのだ。

であるはずなのに、この映画から立ち上ってくるのは、鮮烈なノスタルジー。知らないはずの、その国の出来事、というか景色が、人々の息遣いや仕草が、まるで子供の頃に記憶した景色であるかのように懐かしく思えてくる。

車窓から見える、里山の萌えるような緑とか、土埃の舞う街並みとか、石ころの混じったぼこぼこの散歩道とか、この時代に生きたことはないのに、そのすべてが有機的で美しくて懐かしかった。

ほんとうにそう。なぜなのかは分からない。

なんとロマンチックな作品だろう。呆れるくらいのロマンチストが、自分でも自分のバカさ加減に呆れて、ぐるっと一周して、それでもロマンを夢見るような、、、少年のような、青年のような、老年のような、、、

生きてる。というただそれだけでロマンチックなんだと感じた。



8月15日、終戦記念日。

戦争を知らない世代。それこそ、別の国での出来事であるかのような、遠い認識しか持ち得ていない、ぼくを含めた多くの日本人も、この日くらいは戦争について考える。

「終戦」ではなく「敗戦」なのだ。

終戦記念日になると幾度もくり返される意見。たしかに、終戦ではなく敗戦なのだというのは、紛れもない事実である。ただ、そこまで意識して使い分けていないという人の方が大多数だと思う。呼び方自体に、政治的な作為が有る無しは置いておいたとして。終戦という語り口で、喪失されていくものはあるのかもしれない。失われるのは、敗戦という事実ではなく、そこに至るまでの、人々が生きてきた物語(ものがたり)だ。

ぼくも、その物語(ものがたり)を知らない世代。実感としてはもちろんのこと、知識としても、語り継がれた物語としても、ほとんど知らない。物語が語り継がれるには、140字では足りない。それなりの時間、手触りが必要である。そして受け手の側にも、語られる物語と対峙する姿勢が必要だ。

『風立ちぬ』の、ラストシーン数十秒が描かれるためには、そこまでの2時間が必要だった。あの大きなスクリーンに向き合う時間が必要だった。
あのラストは真実である。と同時に、そこに至るまでの物語(ものがたり)もまた真実である。そのことを「感じる」ためには、物語(ものがたり)と向き合い、あの映画が醸し出すクオリアを共有する時間が必要なのだ。


ノスタルジックであり、ロマンチックであるがゆえに残酷でもある。そういう物語を人はこれからも生きていく。
男だったら、敢えて描かないことで蓋をして隠しておきたい部分がある。居丈高な態度で自分の見たくない部分を否定するのは、弱さの裏返しなわけだが、男はバカだから、という台詞でいつまでも免罪符にできる時代でもない。自らの残酷さを知った上で、それでもロマン(美学)無しでは生きられない。そういう、どうしようもない人間の性を、真正面から、しかし淡々と描いた映画だと思う。

それはとても美しく、とても儚く、とても残酷な物語(ものがたり)だった。




以下、蛇足。

宮崎アニメって、新作が公開される度に、それこそ気合いの入ったマニアから、にわか評論家まで、めんどくさいのが湧いてきて、こぞって議論を呼ぶ。踏み絵的な様相を呈し、単なるいちファンなどが下手な感想などを書くと、笑われてしまう(ような気がする)ので、素直な感想さえおおっぴらに言えないような雰囲気がある。
やれ、宮崎駿の過去の作品が云々だとか、あのアイテムはなにそれの隠喩だとか。

今作は、たばこの描写をめぐって議論が巻き起こっているらしい(一例)。
ばかばかしいというか。せっかくの映画の余韻が冷めるので、こういうのは見ないように、関わらないようにする。

この作品は、「読み解く」とか「分かる」といった性質のものではないと思う。ただ自分が感じたように、感じるしかない。自分が感じたものを、記録として残しておきたいと思ったので、たいした分析があるわけでもないけれども本稿を書いた。いろいろな人がこの映画についてすばらしい論評をしているので下記関連リンクに貼っておく。


映画って、いいですね。


『風立ちぬ』

『風立ちぬ』 2013.08.16 Friday [音楽・映像] comments(0)
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