原発と劣化ウラン弾

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2010年に発行された本であり、ぼくも発売当初に購入していながら、ずっと積ん読状態だった堤未果著『もうひとつの核なき世界』。2011年3月の東日本大震災と、それに伴い発生した原発事故および放射能汚染の問題は、解決の糸口も見えない状態で現在も継続中ですが、事故から2年半が経って、ようやく本書が提示する「核なき世界」という問題と向き合ってみようという気になったので読み始めています(まだ読み終えていないので、書評はまた後にします)。



2009年4月、オバマ大統領がプラハで行った「核なき世界」演説。この演説は高く評価され、オバマはノーベル平和賞を受賞。しかし、堤さんは、オバマのこの演説は欺瞞なのではないか、と疑問を呈します。「核なき世界」宣言後も、アメリカは軍事目的に莫大な費用を計上し続けているからです。そして、アメリカは、「他国が核を捨てない限り、米国は核を捨てない」とも言っています(参考)。個人的に、オバマは信用できる人物だと思いたいのですが、さて。

本書は、湾岸戦争やイラク戦争において劣化ウラン弾によって被曝したとされる米兵への取材から始まります。劣化ウラン弾とは、放射性廃棄物から作られる「安い、堅い、便利」な兵器。なにせ材料は捨てるほどあるわけです、原発を所有する国には。劣化ウランから成るこの弾は、分厚い戦車の鋼鈑を貫通し、破片も出さずにガス化、そのときの高熱で戦車内の兵士を即死させ、さらに放射性ガスも出るという小型破壊兵器。さらに土や水、食べ物も汚染されるとも言われています。実践に使用されたこの劣化ウラン弾によって、イラク国民はもとより、前線に赴いた米軍の帰還兵の多くも後遺症に苦しんでいるそうです。

そういえば以前、劣化ウラン弾についての本を読んだことを思い出しました。



本書で取りあげられている帰還兵ジェラルド・マシュー氏は、先述の堤さんの本でも登場します。ジェラルド・マシューさんは、戦地から帰還後、夜眠れないなど精神的に不安定になり、また体調の異変に気づいたそうです。そこで診断を受けるも、戦地に赴いたことによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されます。しかし、同様の症状を訴える帰還兵が多数いることを知り、劣化ウラン弾の影響ではないかと疑い始めます。

この本を読んだ当時の感想文をブログに載せていたので再掲します。

ヒバクシャになったイラク帰還兵 劣化ウラン弾の被害を告発する / 佐藤真紀

イラク帰還兵であるジェラルド・マシューは針で刺すような偏頭痛をはじめとした体の不調を来す。また帰還後に産まれた娘は右手の指が無いという先天的な障害を持っていた。ジェラルドはこれらが戦地に於ける劣化ウランの影響だとの疑いを持ち、軍に検査の要請をするが「あなたの娘の障害は劣化ウランとは関係がない」という判で押したような返答が帰ってくるだけだった。軍は劣化ウランの危険性さえも認めようとはしない。2005年9月、8名のイラク帰還兵とその家族がアメリカ合衆国陸軍省を相手に裁判を起こす。劣化ウラン兵器のイラク戦争での使用、劣化ウラン兵器の人体に対する危険性を知りながら、イラクに従軍した兵士に対して何ら警告を与えず、防御の為の措置を講ずることもなく汚染にさらし、帰還後も正確な診断をすることなく適切な治療をおこたったことに基づき、損害賠償を求めた。

僕は本書ではじめて「劣化ウラン」の存在を知ったのだが、湾岸戦争やイラク戦争で「劣化ウラン弾」という兵器が使用されたという事実を知っている人はどれだけいるのだろうか。その兵器が使用後も放射性を持ったまま放置され、ジェラルドのように前線ではなく武器の回収作業によってさえも被爆する危険性があるということを。そもそもが現地へ派遣される兵士でさえも「劣化ウラン」という言葉を知らない人が殆どだというのだ。いつだって被害を被るのは指揮を執る人間ではなく現場の人間だ。それだけに現場を知る人たちの声こそが、政府やペンタゴンの発表よりも生々しく真実を語っているように思う。政府に反する声を挙げることは多大な困難を伴う。ジェラルドは劣化ウランの訴訟を起こしてから、それまでの友人たちが全く連絡をくれなくなったそうだ。イラクでは湾岸戦争後、先天性障害を持つ子供が急増しているそうだ。戦争の現場を知る人たちは必ず戦争の恐ろしさを語る。戦争の現場を知らない人ほど勇ましい。

ヨーロッパでは同様の帰還兵や家族に対する補償が認められた例が幾つもあり、ベルギーでは今年(編注:2009年)6月に、劣化ウラン弾禁止法が施行された。日本は相変わらず様子見、というかアメリカ追従の姿勢を崩さない。日米関係がある以上率先して禁止の旗は振れない、というわけだ。そこまでして保とうとする日米関係って何なんだろう。

(再掲ここまで)


米軍の帰還兵たちの体調異変と、劣化ウランとの因果関係は示されていません。一説では、放射能による影響よりも、ウランの重金属としての毒性のほうが危険であるとも言われています。直感的にはこれで因果関係ないと考えるほうが不自然だろうと思いますし、けれども米軍が認めるわけがないということは分かります。もしかしたら、ほんとうに分からないのかもしれない。しかし、いずれにしてもそれについての情報が積極的に開示されないという点において、人々が不信を抱くのは当然であるとも言えます。

米軍が劣化ウラン弾を使用し続ける理由 - WIRED.jpより
イラク等実戦で劣化ウラン弾を使用した地域での白血病の罹患率や奇形児出生の増加、あるいは米軍帰還兵の湾岸戦争症候群などの健康被害が報告されているが、米政府は証拠不十分との立場を取っている。米国の復員軍人省は2007年、兵士たちのガン情報を非公開にすると決定した


そりゃ「何かあるぞ」と思うのがふつうでしょう。
日本での放射能をめぐる状況と酷似していますね。

放射能も、劣化ウラン弾も、健康被害への影響については諸説あるようですし、素人のぼくにはまったく判断がつきません。ただ、その周辺に漂う「うさん臭い」雰囲気、同じニオイがするように感じてしまうぼくは陰謀論者になるのかしら。「政府は事実を隠蔽している、国民を見殺しにする気だ」なのか、「知らせてもどうにもならない(賠償もできない)から言うだけ野暮」なのか、それとも「まだ予断は許さないけれども、ただちに影響は無い」なのか、「この程度なら大丈夫でしょう」なのか、あるいは「分からない」なのか、ほんとうに分からないのです。


劣化ウラン弾は核兵器とは呼ばれませんが、核のエネルギー源であるウラン、原子力発電の副産物である核廃棄物と密接に関わっています。イラク戦争の大義名分であった大量破壊兵器はけっきょく見つかりませんでしたが、アメリカ軍は劣化ウラン弾という小型破壊兵器を大量にバラまきました。

小沢健二は、「原発問題とはエネルギー問題ではなく、軍事問題だ」と言っています。

季刊誌『子どもと昔話』にて連載されている小沢健二の寓話『うさぎ!』。2011年7月に発表された第24話は、原発について書かれた作品であり、2012年の7月にネット公開されて話題を呼びました。原子力発電という存在が、どのようにしてスタートして現在に至るのかについて、各種文献にあたって解説してあります。ぜひ多くの人に読んでもらいたい内容です。

1940年代や50年代には、採算が合わないために実現可能ではないとされていた原子力発電。)榲のコストが高すぎるし、他の燃料であと15世紀は発電できるし、事故が起こったら「想像するだけでも身の毛のよだつことになる」という意見は、ビジネス界も科学界も一致していたそうです。アイゼンハワー大統領が「原子力の平和利用」を訴えても変わらなかった彼らの態度を変化させ、強固に閉ざされていた原発産業への扉を開く鍵となったい箸浪燭。

小沢健二 うさぎ!第24話(2011年7月)より
1957年、プライス=アンダーソン法(PA法、原発事故賠償法)ができる。原発事故の際の賠償の上限を5億6000万ドルに設定して、うち5億ドルは国家が払い、電力会社は6000万ドルまでしか払わなくていい、という法律。
要は、賠償金を怖れて原発に参加することを渋るエネルギー企業たちを、「事故があっても賠償金は少額しか払わなくて良いですよ」と、安心させるための法律だ。
PA法は、再承認がくり返されて、現在もある。
そして2001年には、エネルギーに詳しいチェイニー副大統領が言っている。PA法がなくなったら「原子力発電所には、誰も投資しなくなる」と。
そうか。有用な技術には投資が集まる、と言うけれど、原発技術の場合は、少なくとも基地帝国の場合、たった一つの法律、PA法がなくなるだけで、まったく投資が集まらなくなるわけだ。
そういう技術なわけだ。


なるほど、そういう技術なわけです。日本でもあの事故以前まで、原発はクリーンで低コストだとされてきた、いわゆる安全神話が、実は、事故が起きた場合のことや、核廃棄物の処理についてまったく考慮されてない上でのことだということが分かりました。

しかしなぜ、アイゼンハワー大統領は「原子力の平和利用」を訴え、多額の費用をかけてまで原発を推進しようとしたのでしょうか。まだ「原子力ムラ」が形成される前の話ですから。

同記事より
原発の歴史の中で、「二重目的炉」という言葉が聞こえる。「二重目的炉であれば、原発の採算は合う」と。
二重の目的のうち、一つは電力を売る商売。でも、それはビジネス界の長い抵抗や、保険業界の査定やPA法からも分かるように、市場経済の中でまともに成り立つ商売ではない。
もう一つの目的は、軍事目的。核兵器の材料になるプルトニウムを国家に調達すること。その軍事的なプラスを含めれば、原発を持つ理由はある。「二重目的炉であれば、原発の採算は合う」は、そういう意味だ。
理由がある、エネルギー。核兵器の製造と保持、という理由が。
謎が解ける気がしないだろうか?

(中略)

周りの国が次々と核武装する世で、核武装した国と関わらずに、核兵器を持たない覚悟ができるだろうか? 核軍事衛星が噂される時代に、核兵器を持たず、それでも独立した、自立した国として生きていく見通しが、決意が持てるだろうか? 核武装した大国の属国として、表向きだけ「反核」を唱えるのは楽だ。裏では大国の田舎町に保管された核兵器(事故が起こるのは必ず田舎町だ)と、密接な関係を持てるのだから。でも、そういう形ではなく生きていくとしたら?
それは、全身全霊をかけて答える問いになる。

「違うよ、原発問題はエネルギー問題で、うちの国はエネルギー問題に取り組んでいるんだよ」と言う無邪気な人は、同じ主張をしている、他の国を見ればいい。
イランや北朝鮮やベネズエラが「エネルギー問題に取り組むために原発を建てている」と言ったら、国際世論は、何と言って批難するだろう?
必ず「あれは軍事目的だ!核兵器が目的だ!」と批難する。
彼らがそう言うのは、自分の国の原子炉が「二重目的炉」だからではないだろうか? エネルギーだけを目的とした原子炉なんて、本当は採算が合わず、有り得ないことを、よーく知っているからなのではないだろうか?
正統な歴史を注意深く見ると、「原発問題」ってのがあるとしたら、それは軍事問題のように思える。
たぶん、そうだ。


原子力発電の、そもそもの出発点が軍事問題なのだとしたら、いくらエネルギー問題について論を重ねても、原発問題は解決しないでしょう。軍事問題そのものが無くならないかぎりは、放射性廃棄物から劣化ウラン弾は作られ続けるでしょう。先述の記事中にもありましたが、オバマ大統領は、理想主義的である一方で、極めて現実主義的でもあるのです。その点は忘れてはならないでしょう。

「他国が核を捨てない限り、米国は核を捨てない」という思想と論理は、アメリカだけでなく世界のスタンダードなのです。
森達也さんのコラムより。

(あすを探る 社会)9条の国、誇り高き痩せ我慢 森達也 - 朝日新聞より
アメリカの銃社会をテーマとしたドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』でマイケル・ムーアは、黒人や先住民族を加虐してきた建国の歴史があるからこそ、アメリカ市民は銃を手放せないのだと主張した。報復が怖いからだ。つまり銃を手もとに置く人は勇敢なのではない。臆病なのだ。
 こうしてアメリカの正義が発動し、正当防衛の概念が拡大する。丸腰の高校生を射殺した自警団男性の正当防衛が認められて、無罪評決になったことは記憶に新しい。
NRA(全米ライフル協会)の主張に同意する日本人は少ないだろう。頭の回路がどうかしていると思う人もいるはずだ。でも実のところこの思想と論理は、世界のスタンダードでもある。
核兵器や軍隊の存在理由だ。
我が国の軍隊は、他国に侵略する意図などない。でも悪い国が軍隊を持っている。だから攻められたときのために、国家は軍隊を常備しなくてはならない。つまり抑止力。理屈はNRAとまったく変わらない。
こうして誤射や過剰防衛が起き、それをきっかけに戦争が始まる。人類はそんな歴史を繰り返している。


いま、9条を改正しようという自民党が圧倒的与党となり、参院選での大勝を受けた翌日には、安倍首相が「武器輸出三原則の抜本的な見直しの議論を始める」と発表。さらには武器輸出三原則自体の撤廃まで目論んでいるとまで云われています(参考)。安倍政権がこのように舵を執る根拠に日米同盟があることは明らかで、名実ともに安倍首相は、鳩山氏によって日本が失いかけた、アメリカ追従の姿勢を取り戻しました。
さらに60余年間にわたってやせ我慢して守り抜いてきた9条を捨て、「世界のスタンダード」たる強い日本を取り戻そうとしています。もしかしたら、安倍首相は現実主義的なのかもしれません。
その一方で、安倍首相が思い描く理想というものが、ぼくには少しも伝わってきません。
「憲法改正」して、「国防軍」を創設して、どういう国を作りたいのか。単純に戦前回帰だとは思いません。ただ、現実主義的に原発を再稼働し、現実主義的に憲法改正し、現実主義的に世界のスタンダードたる国防軍を創設したときに、現実主義的に核廃棄物から劣化ウラン弾を作る、なんてことにならないことを願います。


原発と劣化ウラン弾

原発と劣化ウラン弾 2013.07.25 Thursday [政治・メディア] comments(0)
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