『ホテル・ルワンダ』は繰り返す。

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ルワンダで1994年に起こった大虐殺を描き、話題になった映画『ホテル・ルワンダ』。
昨夜ようやく観ました。もともとルワンダの虐殺については聞きかじった程度(たしか森達也さんの著書で「ツチ族への憎悪を煽るラジオ放送が大量虐殺の導火線になった」とかそういう内容だったと思う)で、この映画も話題になったのは知っていましたが、あまりに重そうなので観るのをためらっていました。

きっかけになったのはテレビ番組。GW初日の4/27に放送された「世界一受けたい授業」に、この映画のモデルになったホテル支配人のポール・ルセサバギナさんが出演していたのです。そこで語られる大量虐殺の様子があまりに壮絶で。穏やかな表情で淡々と語るポールさんの言葉が耳から離れなくて。


ポールさんは、大虐殺が起こったルワンダのまっただ中でツチ族を自分のホテルに避難させ、銃口を突きつけられながらも1200人あまりの命を救ったという人物。映画『ホテル・ルワンダ』の主人公でもあります。

もともと緊張関係にあったフツ族とツチ族。フツ族の大統領が暗殺されたことが大量虐殺の引き金となります。暗殺はツチ族の仕業であるという流言がラジオに乗って拡散。多数派のフツ族による少数派のツチ族への虐殺は麻薬のように感染していきました。ナタでアキレス腱を切ってからじわじわとなぶり殺すという恐ろしい光景が各所で繰り広げられ、わずか100日間で100万人が殺されたといいます。


ちなみにこの映画は、採算がとれない等の理由で当初日本公開の予定がなかったそうです。映画評論家の町山智浩氏の呼びかけが署名運動にまで発展し、無事日本公開される運びとなったとのこと。

実際に映画を観てからそのことを知ったのですが、町山さんがここで言ってることに100%同意します。
「ホテル・ルワンダ」と「帰ってきたウルトラマン」 - ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記

同記事より
『ホテル・ルワンダ』を観て、「アフリカは悲惨だな。先進国が何かアフリカのためにしてやれることはないか」と思うのは、間違っている。

(中略)

わかりやすく言ってしまうと、
「アフリカのことは置いといて、とりあえず、これを観た一人一人が各人の生きている場所で隣人を愛してください。
一人一人がポールさんになってください。普段の日常から。それが始まりです」
ということですよ。

(中略)

ポールさん自身は英語版DVDの付録で『ホテル・ルワンダ』を見た人に求めることとして次のように言っている。
「ルワンダを教訓にして、この悲劇を繰り返さないで欲しい」
つまり、ルワンダへの寄付ではなくて、あなた自身の生きる場所でルワンダの教訓を活かせ、と言っている。

この映画の虐殺は「たまたま」ルワンダで起こったが、「アフリカ版『シンドラーのリスト』」と言われているように、このような虐殺はアフリカ、いや「後進国」だから起きたのではない。
世界中のどこでも起こるし、これからも起こるだろう。
そもそも『ホテル・ルワンダ』の監督テリー・ジョージはアフリカへの関心からではなく、北アイルランドで生まれ育ち、カソリックとプロテスタントの殺しあいの板ばさみになって苦しんだ自分をポールに投影して、この映画を企画した。
だからルワンダよりもポール個人に焦点を絞った。
つい、この間も「先進国」であるオーストラリアで群衆がアラブ人を無差別に襲撃する事件が起こった。ボスニアの民族浄化もついこの間のことだし、関東大震災の朝鮮人虐殺からもまだ百年経っていない。もちろんアメリカでもヘイト・クライム(差別による暴力・殺人)は起こり続けている。


他に書き足すことがないくらい、その通りだと思います。

そう、映画の感想としては、町山さんが言ったことに書き足すことはないのだけれど。どれだけ上手くルワンダのことを伝えられるか、映画のことを伝えられるかじゃなくて、ルワンダで起きたことを知って胸がざわざわしたという事実を、忘れないように記録しておきたくなったのです。だからもう少しだけ書いておきます。

実際、この映画を観た後に、なにかを軽々しく語る気にはなれません。それくらい重い映画でした。だけど画面から目が離せませんでした。これは遠い世界の出来事、アフリカという未開の地で野蛮な土人同士がやり合ったとかいう内容じゃぜんぜんない。1994年、まだつい最近のこと。ぼくが18歳の時に、多数派が少数派をナタで叩き殺すという光景がルワンダでは起きていた。

映画では、フツ族がツチ族を「ゴキブリ!」と呼ぶ場面が何度も登場します。それからツチ族への憎悪を煽るラジオの存在も。

虐殺の現場にはいつもラジオが聞こえていたそうです。

ルワンダ虐殺の被害者映像と煽動者たち - NHKスペシャル(Youtube)より
マリファナ吸ってもりあがろうぜ
ゴキブリどもを血祭りにあげよう

心配いらない ラジオが味方だ
だから武器を取って家を出よう


ポールさんによれば、ホテルの周りには麻薬でハイになった民兵がウロウロしていたそうです。

在日朝鮮人を「ゴキブリ!」と罵るデモが存在します。「殺せ」という文字まで出ている。もちろんそんなものは市民権を得ていませんけれども。現在進行形の日本の話です。彼らは麻薬はやっていませんが、ある種の“お祭り”的な連帯感、団結感に熱狂しているようにも見受けられます。在特会のひとりひとりは真面目な若者なのです、と同団体を取材し続ける安田浩一さんは語っています(参考)。

ジェノサイドなんて近代社会で起こりっこない。日本で虐殺なんて起こりっこない。そう考えるのがふつうです。ぼくも、まあそう思っています。ただ、虐殺は起きなくとも、陰湿ないじめならいくらでも起こりますよね。それはたとえば生活保護の問題や、体罰の問題などとして顕在化している。これからもっと出てくるでしょう。

実際にラジオを聞いていたルワンダ人は、「ラジオからは人殺しがいいことのような放送が聞こえていた。まるで殺すのが当然みたいに。」と語っています。

ルワンダ虐殺の被害者映像と煽動者たち - NHKスペシャル(Youtube)より
家に隠れていた子供たちを僕が自分で殺しました。
ラジオが村を変えました。仲の良い隣人や家族までお互いを疑うようになっていったのです。
(4人の子供を殺害したという20歳の若者)


生活保護受給者を叩くのはまるでいいことであるというような空気が醸成されつつあります。密告を推奨するような動きまである。

日本で虐殺なんか起こりっこない。そう思う人は、在特会でググって動画でも見てみてください。胸くそ悪くなりますが…。それが現在進行形の日本です。近隣諸国との火花を煽る首相に、中東に対して無用な喧嘩を売る都知事。世界からは「Japan Moves Right」と見られているのは間違いないでしょう。

そんな、いまのこの時流の中で、「世界一受けたい授業」という番組がゴールデンタイムにポールさんを出演させたというタイミングの意味を考えています。お食事時のお茶の間に合う内容ではない。誰の意図かは分かりませんが、メッセージを感じずにはいられない。政府(=米国と財界)に追随して大本営発表に終始するマスコミ各社に対する、制作側のせめてもの抵抗なのではないか、とか。


番組中でポールさんはこう言っていました。

フツ族とツチ族にはもともと違いがないのです。

ぼくはこれがいちばんの驚きでした。フツ族とツチ族というのは、もともと人種も言語も文化も宗教も同じであり、ルワンダがベルギーの植民地になったときに、ルワンダがひとつにまとまらないように職業などによって適当に分けられたものなのだそうです。なのに今でも根深い対立が存在するといいます。フツ族とツチ族の夫婦はたくさんいるし、職場や生活圏では両者は普通に共存しているにも関わらず。

どうしたって、重なって見えます。関東大震災の時に起きたというあの事件と。そして新大久保などで現在進行形のデモという名のヘイトスピーチと。あるいはそれだけじゃなく、何かしらの意図をもって作られた対立構造というものがあちこちに存在してやしないかと。


もうひとつ町山さんの記事より引用。

『ホテル・ルワンダ』なんか何の役にも立たない!この人を見よ! - ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記より
このルワンダの事件を、遠いアフリカの出来事として観ても意味がない。虐殺は、どこの国でも起こってきたし、これからも起こり得ることであって、私たちは誰でも、人を差別して迫害する、虐殺の種を秘めている。


もういちど繰り返しますが、フツ族とツチ族にはもともと何の違いもありません。植民地化された時に宗主国の都合で作られた対立なのです。

そしてぼくらは誰もが虐殺の種を秘めている。

大事なのは、そのことに自覚的であるかどうか。なぜなら虐殺を煽動したのはラジオ放送というメディアだからです。自分はぜったいに差別なんかしない、不正は許さない、毅然とした態度を貫く。そういうふうに思い込んでいる人ほど、直情的な報道に煽られやすいものです。差別する意図は無かったなどと言い訳しながら差別をするのはそういう人です。ナタを持って踊りに行くのはそういう人です。

政治の2ちゃんねる化と蛸壺化が加速しています。報道はすさまじい速度で劣化している。たぶんもう止まらないでしょう。有権者の2ちゃんねる化と蛸壺化も同じです。行くところまで行かないと気付かない。そうなった時にせめて自分の家族だけでも沈没しないように手綱を編んでおくというぐらいしか、もう出来ることはないんじゃないか。ポールさんは結果として1200人を救うことになりましたが、彼がいちばん救いたかったのは家族です。そんなことを思いました。


『ホテル・ルワンダ』は繰り返す。

『ホテル・ルワンダ』は繰り返す。 2013.04.30 Tuesday [音楽・映像] comments(1)
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ETCマンツーマン英会話 (2014.06.13)

ポール・ルセサバギナ氏を調べていてこちらにたどりつきました。

>そしてぼくらは誰もが虐殺の種を秘めている。

ポール・ルセサバギナ氏の著書を読んで同様のことを思いました。

>自分はぜったいに差別なんかしない、不正は許さない、毅然とした態度を貫く。そういうふうに思い込んでいる人ほど、直情的な報道に煽られやすいものです。

常に気にしておかなければいけない視点ですね。

>アフリカのことは置いといて、とりあえず、これを観た一人一人が各人の生きている場所で隣人を愛してください。

日本も大変な状況。自分が何ができるのか今一度思案中しております。











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