柔道家 山口香さんのことば

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全日本女子柔道の園田前監督による暴力行為があったと、15人の選手がJOC(日本オリンピック委員会)に告発した事件。体罰の問題が話題となる中、このハラスメント問題も大きな話題になっています。当然ながら、TLでもマスコミでも、全柔連に対する批判的な意見がほとんどです。

2月6日、JOC理事でもある柔道家 山口香さんは、選手15人の告発をサポートしていたという事実を明かしました。
山口香氏「告発サポートした」 - 日刊スポーツ

山口香さんは、日本女子柔道の創生期に、全日本選手権10連覇、世界選手権金メダル、ソウル五輪銅メダルを達成し「女三四郎」と呼ばれた伝説の女子柔道家。人気マンガ『YAWARA!』のモデルにもなったとも云われています。また柔道界で初めて女子柔道を近代的かつ体系的に解説した『女子柔道の歴史と課題』を執筆し、柔道が直面している問題を考えるブログも話題を呼ぶなど、非常に聡明な方のようです。

朝日新聞に、今回の告発の背景や、柔道界が抱える課題を山口さんが詳しく語っているインタビュー記事が掲載されています。
15人の告発 筑波大大学院准教授、元世界王者・山口香さん - 朝日新聞

すばらしいインタビューなのですが、ログインしないと読めないのはめんどくさもったいないので勝手に転載します(怒られたら消します)。柔道界だけの問題ではなく、教育やジェンダー・差別、民主主義などいろいろなことにつながる話だと思います。

同記事より抜粋(太字は筆者)
「昨年9月、園田隆二前監督が暴力行為をしていたと、私自身、耳にしました。個人的に何人かの選手に話を聞いて事実を確認し、全日本柔道連盟の幹部に伝えました。まずはきちんと調べて、広く選手に聞き取りをして下さいとお願いした。ちょうどロンドン五輪の検証をする時期でもあり、この際だから調査した上で次の体制を決めるべきでしょう。ところが全柔連は園田前監督にだけ話を聞き、厳重注意の処分にした。こういう問題は、片方だけを調べて終わるものではないはずです」

「ところが、その後も園田前監督が被害者に心ない態度をとった。彼女が頑張った試合の後、『おれが厳しく指導してきたことが今回につながったんだ』というようなことを言ったというんです」

「私は女子柔道家として、日本代表でナショナルフラッグを背負う選手に、そういう態度をとることは絶対に許せません。まして言動を注意された後にみんなの前で暴力を肯定するようなことを言うなんて言語道断。日本の女子柔道が長い時間をかけて強くなってきたのは、選手一人ひとりが力を合わせて切り開いてきたからです。決して暴力的な指導をしたからではない」

「園田前監督は情熱があり、指導力もあるかもしれません。だけど国を代表する選手に対するリスペクトがなかった。続投は昨年11月に発表されたんですが、もっと後でよかった。選手の話に真摯(しんし)に耳を傾け、手順を踏んで、選手が納得してから発表するべきでした」

「私もいろいろ考えました。相談してくれた選手には『こういう結果になって申し訳ない。私の力がなかった』と謝りました。そして『申し訳ないが、ここから先は私ができることじゃない』と話しました。私が何を言っても、私の意見としか受け止められない。私と全柔連という対決の構図になり、問題の本質がずれてしまう。山口に対する対処をされてしまうと思いました」

「私は選手に言いました。『ここからはあなたたち自身でやりなさい』と。さらに『あなたたちは何のために柔道をやってきたの。私は強い者に立ち向かう気持ちを持てるように、自立した女性になるために柔道をやってきた』という話もしました」

「悪い言い方をすれば、選手たちはここまで我慢してしまった。声をあげられなかった。『こんなひどいことが行われてきたのに、誰にも相談せず、コーチにも言えず、がっかりしている』とも話しました」

「私はもう助けられない。だから自分たちで考えて、と。そこからは私は直接的には関与していません」

「彼女たちの行動には賛否両論あると思いますが、彼女たち自身が起こしたものであるとはっきり言いたい。声明文にもあるように、彼女たちは気づいたんです。何のために柔道をやり、何のために五輪を目指すのか。『気づき』です。監督に言われ、やらされて、ということでいいのか。それは違うと

「私は今回のことで一番重要だったのは、ここだと思います。体罰にも関わりますが、体罰を受けている選手はその中に入ってしまうと、まひしてしまう。自分のプラスになっているんじゃないか、先生は自分のことを思ってやってくれている。そんな考えに陥りがちなんです」

「15人が名前を公表していないので、負け惜しみと受けとる人もいるでしょう。名前を明かすことはできませんが、五輪に出た選手もいます。代表を勝ち取った、つまり勝者なんです。みんなで切磋琢磨(せっさたくま)し、励まし合って4年間を乗り切ったんです。選手たちは言っています。『だから勝ちたかった』『メダルを取りたかった』と。全員で好成績をあげて、声をあげたかったと。私たちが抱えてきたものを次の世代に残さないためにメダルが欲しかったと」

「ここからが私たちの仕事だと思っています。時間がたつにつれ、彼女たちのことを『何様なんだ』と言う人たちが必ず出てきます。今度は私たちが矢面に立って守ってあげなきゃいけない。柔道界をあげてサポートするという姿勢が大切です。訴えたことが悪いんじゃない。問題をすりかえてはいけません

「私は選手が自発的に起こした行動を見守り、自立するのを待っててあげたいという気持ちです。選手の自立を助ける。それがスポーツでしょう。選手は臆せず意見をはっきり言える人間に成長しているんです」


「柔道はもともと相手を倒す戦闘目的のものでした。いわゆる柔術ですね。ところが柔道の創始者、嘉納治五郎師範はそこに疑問を持ち、指導方法を体系化して安全に学べるものにしました。強くなるには『術』が大事だが、それが目的ではない。その術を覚える過程で、自分という人間を磨く大切さを説いた。だから『道』になったんです。園田前監督らは金メダルを取らせないといけないという重圧から、戦闘目的の『術』に戻ってしまった。人間教育がどこかにいってしまったんです」

「嘉納師範亡き後、指導者たちはその理念を勝手に解釈するようになったのでしょう。柔道が国際化し、JUDOになって大事なものが失われたと語る日本の柔道家は多い。違うと思う。嘉納師範は柔道の修行として『形』『乱取り』『講義』『問答』の四つをあげています。後ろの二つを一部の日本人が省略し、柔道の姿を変えてしまったんです」

「まず全柔連の理事に女性がいないと指摘されていますよね。ダイバーシティーという言葉がありますが、いまは多様化の時代です。いろんな視点が必要で女性もその一つ。外部から女性理事に入ってもらってもいい。柔道界の中で顔を浮かべるから、この人じゃダメだとなる。元バレー選手、元サッカー選手でもいい。コーチに外国人を採用してもいいでしょう」

「柔道界は強い者が絶対という思想があります。柔道家同士だと『お前弱かったのに』というような部分がどうしてもある。先輩後輩という関係もつきまとう。でも、本当に柔道を愛しているのは、強くなくてもずっと続けた人だと思うんです。そういう人を尊敬し、適材適所で力を発揮してもらう。キーワードは『リスペクト』と『オープンマインド』。強い弱いを越えて相手を尊敬し、広く開かれた組織になって多種多様な意見を取り入れる。そこから始めることが大切です」


自立性、主体性を大事にすること。多様性を尊重すること。
これって、教育の問題そのものです。

野口晴哉氏はこう言っています。
野口晴哉botより
教え育てるということは先人の知を与え、当人の智を伸ばすことに止まらず、そのもてる能力を発揮して自分自身の足にて立たしむることだ。自分から産み出すを教え、自分の考えを実行し、失敗したら更に力を出すことを体得させることが大切だ。


日本の教育がおかしくなってしまったのは、これに逆行してしまったからだと思います。子供はもとより大人までも、自分で考えるちからがどんどん失われてしまった。安倍首相や橋下市長の掲げる教育改革とは、まさに自立とは逆の方向を指向する、強者の理論です。上から下に教え込む。刷り込む。従わせる。体罰の問題なんかはまさしくその象徴であるように思えます。

そして、山口さんが懸念する通り、さっそく「問題のすりかえ」が始まっています。自民党の橋本聖子議員(女子スピードスケート銅メダリスト/JOC理事)が「告発した選手15人の名前は公表されるべき」との認識を示したというニュースが流れました。
柔道女子、告発選手名の公表を 自民・橋本聖子氏 - 47NEWS

これに対する批判が多かったのかどうか、橋本議員は発言を否定しています。
橋本聖子議員、柔道女子の「氏名公表」発言を否定 - デイリースポーツ

発言自体は否定しながらも、「氏名を公表しないことについて厳しい意見もある」としており、結局は言ってることは同じであるように受け取れます。

フジヤマガイチさんのツイートより
橋本聖子の発言からは、実名公表しても何があっても選手を守ってあげますと言う意思は全く感じられず、今後こういう告発したらどうなるか、よく見ておけよ!と言うメッセージはよく伝わってくる。



自民党はいまや、強者のための政党になってしまいました。貴族院と言ってもいい。貴族による貴族のための政治というふうに考えると、自民党のやっていることがよく分かる。貴族にとって、民衆が自立し、主体的に行動することははた迷惑です。だから多様性に対して不寛容な態度になりがちであるし、相手を「教育」して自分のコントロール下に置こうとする。今回の柔道問題は、現在の日本における貴族対民衆という対立構図の現れであるように思えます。って、いま何時代だよ。

民主主義の成熟を阻むのは、差別の構図です。選民意識を持った人々が、下々の者を統治(指導・教育)するという差別意識は、なかなか無くなりません。監督→選手、教師→生徒、先輩→後輩、上司→部下、親→子、男→女、元請け→下請け→孫請け、電力会社→生活者、マスメディア→視聴者、識者→シロート、現場を知る者→現場を知らない者、お上→庶民…。至るところに選民意識(差別)は偏在しています。生まれながらの家系によって差別されるというあからさまな身分制度は近代化とともに無くなったかもしれませんが、競技や試験そして経済活動という「競争に勝った者」こそが偉い、という選民意識がまた違うかたちでの差別を生んでいるのかもしれないなと思うのでした。

柔道家 山口香さんのことば

柔道家 山口香さんのことば 2013.02.07 Thursday [子育て・教育] comments(0)
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