七尾旅人「圏内の歌」

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震災前から名前はいろんなところでよく目にしていました。何度か試聴もしてみましたが、すすんで聴くには至りませんでした。震災後、近所の芸工大で「福興」ライブに来ていたらしいということをツイッターで知りました。ああそういうマインドの人なんだと漠然としたイメージを抱いておりましたが、やはり未聴でした。シンガーソングライターの七尾旅人(ななおたびと)さん。

ふとしたきっかけで、彼の「圏内の歌」という歌を聴きました。すばらしい歌だと思いました。心の深いところで感動した気がしました。下記の映像は、2011年9月17日に山形県長井市で行われた音楽フェス『ぼくらの文楽』での演奏です。(正確には、音楽だけでなくレクチャーやワークショップも開催される、「文化フェス」だそうです。ちなみに同フェスは今年も開催されます。)



とてもかなしくて とてもやさしい うただと思います。

日本のミュージシャンが原発や放射能について歌うことはあまり多くありません。センセーショナルな話題を呼んだ、斉藤和義さんの「ずっとウソだったんだぜ」は、ぼくもその内容には同感だし「ロックな」歌だと思います。あの時期にあの歌を歌った斉藤和義さんには拍手をしたい。ただ、これがずっと語り継がれていく歌であるかというと、ちょっと違うような気もします。あるタームにおいては、反骨を体現する「ロック」は必要ですが、いま日本の原発をめぐる状況は、すでに次のフェーズに突入しているように感じるからです。

七尾さんが歌う「圏内の歌」は、もっとずっと被災地に寄り添った歌です。この歌は、七尾さんが被災地の現場に足を運び、作られたものだそうです。国に対する不信や理不尽さに対する怒りがあるのはもちろんのことですが、もはやどうしようもないことだというある種のあきらめというか、被災地で、放射能の恐怖とともに暮らす人たちの、なんというか、「そのまま」があるように感じました。少なくとも七尾さんは、「そのまま」と向き合い、寄り添おうとしているのだと思う。

小さな子どもを持つ親としては、「こどもたちだけでも どこか遠くへ」という行では、やはり胸がきゅっと締めつけられるような想いになります。「離れられない 小さな町」は現地で暮らす人の正直な気持ちだと思うし、そうやって「何年も 何年も おばあちゃんに聞かされた寝物語 ここらへんのこどもたちは みんな知ってるやさしいお話」が、これから作られて語り継がれていくのだろうと。これは未来の歌でもあります。


原発事故、とりわけ放射能と向き合うことが、タブー視されるようになるのは、とてもおそろしいことです。「このくらいの放射能は問題ない。安全だ」という意見や、「もう日本はだめだ。東日本は人が住めない」という両極端な意見ばかりが目立つようになり、ふつうの人が放射能に対する素朴な疑問や不安を口にすることすらはばかれるといった空気が世間に瀰漫するならば、ぼくたちは自分の心に対しても、子どもに対しても、どこかウソをついていかなければなりません。ウソを積み重ねて、砂上の楼閣を作っていくことになる。それは「論理的」には正しいかもしれませんが。喉の奥に何かがつっかえているような違和感がつきまといます。


ぼくがこの曲を聴いてみるきっかけになったのは、リツイートでまわってきた七尾さんのツイートに感銘を受けたからです。脱原発をテーマにした音楽イベント『No Nukes 2012』での演奏(七尾旅人・大友良英・坂本龍一・ユザーンによる共演)を終えてのつぶやき。

七尾旅人さんのツイートより
音楽的な言語で 政治やジャーナリズムの言語では語りきれないものを捉えて鳴らそう 単純化されたスローガンに陥らないように 音の波をかきわけて どんな立場の方にも会いに行ければ良い 音楽は誰も排除しない


ああ、ぼくらが音楽を聴く理由がここにあるなと思いました。

言語化され、可視化されることによって、ぼくたちのコミュニケーションは円滑にすすみます。しかるにコミュニケーションに使われる言語は単純で明快なほど伝わりやすい。マスメディアはやたらと分かりやすいフレーズでものごとを説明しようとします。その結果、どこも画一的な表現になってしまう。逆に、知識人がやたらと難しい言葉で相手を説得しようとするのも、言語化され、可視化されるものこそが正解なのだという自負があるからではないかと思います。

でも、そうじゃないものってたくさんあると思う。単純明快な言葉で説明したとき、そこからこぼれ落ちてしまうものもたくさんあります。それはうまく言葉で言い表せないかもしれない。でも、言葉で言い表せないから「無い」わけでは決してない。もしかすると、言葉という媒体によって伝達され得ないからこそ、人の心の深くに根をはって住み込んでいるものかもしれない。

音楽には、そういった何ともいえない心象のようなものを、すくいあげる力があるのだと、そしてまた、そういった心象をもとにして、人と人がつながることもあり得るのだと、もしそれが可能ならば、ゆるやかでやさしい共同体ができるだろうなと、七尾旅人さんのこの歌を聴いて、思いました。




追記(7/17)
No Nukes 2012での「圏内の歌」動画がありましたのでリンク貼っておきます。
「圏内の歌」 七尾旅人 + 大友良英 + 坂本龍一 + ユザーン No Nukes 2012


「圏内の歌」も収録された七尾旅人ニュー・アルバムはこちら。


七尾旅人
SPACE SHOWER MUSIC
発売日:2012-08-08



七尾旅人「圏内の歌」

七尾旅人「圏内の歌」 2012.07.09 Monday [音楽・映像] comments(0)
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