北欧の子育て事情を支えるもの

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北欧は福祉国家であるという認識はだいぶ浸透していると思います。高い税金を納め、そのぶん充実した社会保障を受けることができる国。市民自身がそういう選択をした民主主義の国。なかでも、子育てするのにお金の心配をする必要がないそうで、保育・教育制度や育児休業の保障など、子育てに関する行政の充実ぶりは日本と比較するとため息しか出なくなるほどです。ノルウェーは「母親にとって最も子育てしやすい国」と言われているし(男性の育休取得率が90%だとか)、幸福度ランキング世界一のデンマークは大いなる信頼社会であり、買い物に行っても赤ちゃんを乗せたベビーカーを店の外に置きっぱなしにできるほど信頼感が街にあふれていると言います。

とはいえ、彼の国々もはじめからそうだったわけではなく、徹底した民主主義と男女平等(国会議員の男女比もおよそ半々)が少しずついまのカタチをつくっていったと考えたほうがいいでしょう。そう、彼らは自分たちで自分たちの社会を選択してつくっていったんです。ではなぜ、彼らは高い税金による手厚い保障を選んだのか。クーリエジャポンの2010年12月号「ノルウェーの幸せな母親たち」にこういう記事があります。

保育園の受け入れも、父親の育児休業も法律で保障されているこの国の根底にあるのは、男女が同じように働き、同じように家事をすることが、合計特殊出生率の上昇につながるという共通認識だ。


ちなみに日本の合計特殊出生率は1.3、ノルウェーは1.9です。少子化対策に本気で取り組んでいること、子どもの存在こそが物理的にも精神的にも国の未来をかたちづくるということを前提にしていることが伺えます。しかし昔から盤石の体制だったわけではなく、紆余曲折を経ています。石油フィーバーがもたらした産業の発展は社会にマイナスの影響ももたらし、70年代半ばには同国の合計特殊出生率は1.5まで落ち込んだそうです。その後、地域や女性たちのネットワークの力強い働きが国民の思いを後押しし、政治を動かしました。育児休業の拡大、男女平等法、そして初の女性首相の誕生。86年以来ノルウェーでは女性閣僚の割合が40%を下回ることはないそうです。

3児の母でもあり、現在の出生率上昇に大きく貢献したという女性大臣は「いま私たちが手にしている権利は、政治的決断の結果です」と語っています。

「男女が平等な社会を実現させるための政策は、経済を潤す石油よりも大切です。」
「私たちが実現した政策は、社会の接着剤のような役割を果たしているのです。男女が同じように家事を行えば、離婚率が下がり、出生率も上がるのです。」

(以上、クーリエジャポンの2010年12月号「ノルウェーの幸せな母親たち」参考)


この大臣の発言はとてもユニークですよね。男女が同じように家事を行えば離婚率が下がり出生率も上がるだなんて、日本だったら笑われるかもしれない。でも核心なんじゃないかなあと思います。

戦後日本のロールモデルは、働くお父さんと家事をするお母さんだったわけで、完全に分業していました。父親が子育てにタッチすることは少なかった。核家族化が進む中で、お母さんがひとり育児に奮闘するのがふつうだったわけです。経済成長の時代はそれでうまくまわっていました。右肩上がりの成長を続ける日本企業の、年功序列や終身雇用といったモデルがある種の社会保障の役割を果たしていたとも言えます。

しかし社会構造の変化とともに共働きがデフォルトになってきたにも関わらず、人々の意識にあるロールモデルがたぶんまだ分業時代から抜け出せていないために、いろいろな歪みが生まれているのだと思います。共働きでなければ生活が成り立たないようないまの日本の社会構造の中で、社会保障もいいかげんであるならば、子どもを持つことによってリスクと負担が増えるということを考えれば出生率が下がるのは合理的に考えて当然のこと。もはや右肩上がりの経済成長など望めないのは明らかであるから、ロールモデルを書き換えなければならない。なのに、この国のロールモデルはいまだに働くお父さんと家事をするお母さんを想定しているように思えます。

何度も言いますが、ぼくは自分の子が生まれるまで、自分が子どもを持つなんて想像もできなかったし、他人の子にもほとんど関心がありませんでした。ところが、子どもが生まれることで一変しました。生まれ変わったと言ってもいいかもしれない。子どもの存在がこんなに愛しいものだとは知らなかったし、足りないながらも子育てに参加することで、育児がこんなにしんどいということを身を以て知りました。そうすると、妻との連帯意識が強まったのはもちろん、ふしぎなことに他人の子も可愛く思えてくるようになり、親への感謝の気持ちも生まれ、いろいろなことに寛容になりました。想像力の容器が少しずつ大きくなっていくような感覚とでもいうか。

政治のことを考えるようになったのも、子どもがいるからです。目の前で日々じぶんのちからで成長していく我が子のすがたを見ていると、ああ、世界をつくっていくのはまぎれもなく自分自身なんだと気づかされるし、そうして、未来の子どもたちが暮らす社会をつくるのが、いまの一票なのだとはじめてわかりました。ぼくは自分の子どもに笑顔で暮らしてほしいと願います。だからそのために、ただそれだけのために、いろいろと考えるのです。


今日、ちょっといい話に出会いました。
フィンランドで妊娠・出産を経験し、現在も育児中の女性による連載。
フィンランドで妊娠出産 #5 赤ちゃんを取り巻くモノ - 北欧×AREAより

これは、夫が赤ん坊の頃着ていたベビー服。なんと37年前に着ていた夫からのお下がりです。私がこのベビー服を初めて見たのは夫と暮らし始めたころで、クローゼットの中に無造作につっこまれていました。

『??‥‥なんでベビー服が彼のクローゼットに?』と不思議に思い聞いてみると、それは彼が赤ちゃんの時着せられていたもので、彼の母親がずっと大切に保管して、彼が一人暮らしを始める時に、一緒に持って行ってと渡され、何度も引越しを繰り返す間もずっと彼のクローゼットにしまわれ、彼とともに時を過ごしてきた服なのでした。

ちょっと感動して、できればこの服を私達の子供に着せたいと思うようになりました。

だけど、そんなにうまく物事はまわっていきません。それから数年、私達に子供は授からず、どうも不妊らしいということがわかり、外で赤ちゃん連れの母親を見かけては辛い気持ちになったり、友人に子供が授かっては複雑な感情に苛立ったり、でもあきらめもつきかけ、歳をとり、4年が過ぎた頃、夫の妹に男の子が誕生しました。

そして夫は、あっさりそのベビー服を甥にあげてしまったのです。

『いつまでも着られないまま、しまわれていてもしょうがないものね』、と自分に言い聞かせ、夫のお下がりのベビー服を着た甥の写真を眺めて、私はやっぱりちょっと傷ついていました。

あきらめがついて、もういいや、私には仕事があるし、夫と二人で中古の家を買って、自分達で手を入れて、時間をかけて好きな空間を作って、そうやって暮らしていこうと決心し、いろいろ物件を見てまわっていたときに、私達に子供が授かりました。

夫の妹は、私が子供を待ち望んでいたこと、夫のお下がりのベビー服を自分の子供に着せたいと思っていたことを、知っていたようでした。甥を抱っこした義理の妹は、そのベビー服を甥に持たせて、『妊娠おめでとう!貸してくれてありがとうね』と、私達に微笑みながら返してくれたのでした。

そうやって私達夫婦、それから義理の妹家族の間にずっと一緒にあったベビー服は、私の息子が使い、それももう小さくなって着れなくなって、今は夫が作った額縁のなかに納められ、私達の寝室に飾られています。

このベビー服、よく見ると、胸のアップリケはどうも彼の母親が手縫いでつけたもののよう(彼女は裁縫があまり得意ではないので、その仕事を見ていると微笑ましい)。姑が夫を産んだのは20歳で、姑夫婦は一軒家の2階を間借りして、小さな赤ん坊だった夫を抱えて暮らしていたのでした。

モノは言葉を話しはしませんが、私達のそばにあって一緒に時間を重ねて行きます。モノが人の気持ちを波立たせたり、しみじみとした喜びを与えてくれたり、それを取り巻く人々によって大事な記憶の形となります。


つまりこういうことじゃないかなあ、大事なことって。
ノルウェーの大臣はなぜ男女平等な社会が出生率上昇につながると思ったのか。デンマークではなぜ買い物に行っても赤ちゃんを乗せたベビーカーを店の外に置きっぱなしにできるのか。北欧の充実した社会保障はいったいどこから生まれているのか。

それらを選択するのはぼくたち自身だし、選択する基準になるのは思いです。
ぼくたちは何をたいせつにしたいのか。
経済なのか、いのちなのか。取り扱いは異なります。

いまの日本では子育て世代が少数派だそうなので、子育てに関する社会保障を手厚くするのは難しいかもしれません。子ども手当の処遇を見ればそれはわかります。子ども子育て新システムの行く末も不安です。でもたとえば、いま少しずつ増えている育児に積極的に関わろうとする男性がもっと増えていけば、あるいはイクメンたちが還暦を迎えるくらいの世代交代が進めば、「男女が同じように働き、同じように家事をすることが、合計特殊出生率の上昇につながる」という共通認識が浸透するようになるかもしれません。いや、もちろん北欧でのロールモデルがそのまま日本でも通用するとは限りませんが、どのようなかたちであれ、社会のあり方やしくみをラディカルに考えて、それを選んだ人の思いが実現されるような「政治的決断の結果」を手にできるようになりたいですね。

そのときのために、ぼくはいま現在、子育てで日々感じることを忘れないようにしたいと思います。

北欧の子育て事情を支えるもの

北欧の子育て事情を支えるもの 2011.10.18 Tuesday [子育て・教育] comments(0)
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