TPPと年次改革要望書

 このエントリーをはてなブックマークに追加 TOPSY
年次改革要望書というものをご存知でしょうか。ぼくは知りませんでした。鳩山首相が退陣してから、そんなものが存在していたことを知りました。鳩山政権はこの年次改革要望書にNOを表明していた、という事実をもって。

まずはWikiより。【年次改革要望書とは、日本政府と米国政府が両国の経済発展のために改善が必要と考える相手国の規制や制度の問題点についてまとめた文書で、毎年日米両政府間で交換される。】
どうやら建前としては、日米間の双方による相手への要望書ということらしいです。その具体的内容については、【双方の要望書は両国政府によって公開されており、日本から米国への要望書については、外務省のウェブサイトにおいて公開されている。同様に、米国から日本への要望書については、駐日米国大使館のウェブサイトに日本語訳されたものが公開されている】そうですが、面倒なので確認はしていません。引き続きWikiによると、米国側からの要望で行われた日本の改革としては、【建築基準法の改正や法科大学院の設置の実現、独占禁止法の強化と運用の厳密化、労働者派遣法改正、郵政民営化といったものが挙げられる】とのこと。

これって、いずれもアメリカ企業の日本市場への参入条件を有利にするもの。自民党がその政治手法の根底に位置づけていた「対米従属」をまさに具体的に体現するものじゃないでしょうか。アメリカ経済の利益になるように日本の構造を改変するため、こと細かな要求が毎年出されていた、という事実。こんな大事なことが、既存のマスコミではまったく取り上げられないという事実。この2つの事実は、政府も官僚もマスコミも対米従属の体質(そこからの利権に関わる人たちの集まりである)という点で符合します。親米という政策を選択することが国益の最善策であった時代を、世界情勢が大きく変化した今でも後生大事にずっと引きずっている。悲しいことにそれが日本の現状なんですね。しかし、「対米従属」から脱却して自立を目指す最大のチャンスがありました。それが政権交代でした。

ぼくがこの年次改革要望書という存在をしったのは、畠山理仁さんのツイートでした。

驚いた。鳩山政権は「日米規制改革委員会」を廃止していたのか。この委員会は、毎年日米間で交換される「年次改革要望書」を扱ってきた。日本側は過去、米国側の強い要望に沿う形で建築基準法改正、労働者派遣法改正、郵政民営化などを実現。ゆえに要望書の別名は「米国のための日本改造命令書」。

この結果として、2009年以降、米国大使館のサイトに年次改革要望書が掲載されなくなったのだそうです。鳩山政権は、官僚主導の「対米従属」体制から決別し、真の政治主導を実現するために、自立を目指していた。そのための具体的な方策を立てようとしていた。東アジア共同体構想も、その流れから出てきたものだと考えると方向性は符合します。そうして、そのことがアメリカの不信を買い、圧力がかけられた。そのように推測することができます(ウィキリークスでもそんな情報がありましたよね、たしか)。沖縄問題の迷走による鳩山氏の辞任は「対米従属」側である官僚マスコミによる、“ルーピー鳩山”像の演出が大きかったことは記憶に新しいところです。


さて、平成の開国と称して菅政権が打ち出したTPPへの参加。雇用雇用雇用と言っていた人が、雇用との関連もろくに説明することなしに、声高に開国論を唱えていることに違和感を感じている人も多いと思います。このTPPは、参加予定国の総GDPのうち、日米間が9割を占めるそうです。つまり実質的には日米間の協定ですよね。小野昌弘さんのツイートによると、TPPの原型は06年にシンガポール等4カ国が結んでいた協定だったが、09年11月にオバマ氏が訪日中に米国のTPP参加を表明してから、米国主導のものに変質したそうです。ええと、もういちど書きますね。オバマ氏が「訪日中」に、アメリカはTPP参加を表明したそうです。そして、日米が参加することで、TPPの9割は日米間のものになるそうです。これは偶然でしょうか。これって、ふつうに考えれば、アメリカが主導することは目に見えてるわけで、、あれ、それって、年次改革要望書とすごく似てませんか?

菅政権は、発足直後から、それまで鳩山政権がつくろうとしてきた「新しい政治のかたち」を次々と覆しています。記者会見のオープン化を閉じたり、原口前大臣が発言したクロスオーナーシップ禁止も撤回、誰が見ても財務省主導の消費税増税発言を突如してみたり、新体勢ではTPP推進派を積極的に起用し、挙げ句の果てには与謝野氏を閣僚に加え増税路線へまっしぐら。「国民の生活が第一。」と言っていた民主党とは似ても似つかぬ姿に、国民の選挙もないままに変貌してしまいました。いったいどうしたというのでしょうか。

ここでもまた同じ構図での推論ができます。鳩山政権はアメリカにNOと言ったことで、つぶされた(アメリカそのものにつぶされたというよりも、対米追従構造の中で盤石の体勢をもつ既得権益…官僚、マスコミ、財界といったところから総スカンをくったと見たほうが妥当でしょう)。菅さんはそれを見ていた。もともと総理大臣になること自体が目的であった彼は、鳩山さんの二の舞になるようなことはしないと学習した。代表選であらわになりましたが、もともと一枚岩ではない民主党は、大きく2つに割れました。マスコミは反小沢、親小沢と呼んでいますが、(メンバーの分け方は合っていても)それは本質ではありません。現在の民主党内の亀裂は、「対米従属」か「自主独立」か、という対立軸にこそあるのだと思います。菅さんが思いつきのように打ち出す数々の政策も、対米従属という視点で見ると、つじつまが合うからです。

そうやって見ていくと、TPPはまさにアメリカの日本改造計画じゃないでしょうか。自由化に反対する農業界とGDPが上がると賛成する輸出産業という対立軸ばかりがマスコミでの論調の主流ですが、実はTPPは農業だけの問題ではないと多くの人が指摘しています。TPPへの参加によって日本の農業が壊滅することが予想されますが、実際にはそれを含むもっと大きな構造の崩壊が予想されるというのです。

TPPの議論はメチャクチャです。経団連会長は「TPPに参加しないと世界の孤児になる」と言っていますが、そもそも日本は本当に鎖国しているのでしょうか。

日本はWTO加盟国でAPECもあり、11の国や地域とFTAを結び、平均関税率は米国や欧州、もちろん韓国よりも低い部類に入ります。これでどうして世界の孤児になるのでしょうか。

中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる - THE JOURNALより

農水省の調査によるとTPPに参加すれば、食料自給率が14%まで下がるという。86%は諸外国の作物だ。それらの作物を食べながらさまざまな国々の土を食べることになる。その土が食べてもいいほどに安全かどうかは誰も知らない。汚染度合いも疲弊度合いもわからない。国民の健康で安心な暮らしが量的のみならず、質的にも危機にさらされる。

菅野芳秀:TPP ちょっと考えて...土の話 - THE JOURNALより

TPPに含まれる、混合診療と医療への株式会社参入の解禁は、日本の平等で良質な医療システムの息の根を止めるためのもの、と言って過言ではないと思います。結末は、高額な医療費・保険費用と医療格差です。そして、この改変で確実に得をするのは、外資の民間健康保険会社でしょう。

小野昌弘さんのツイートより

米国弁護士資格で日本へ参入。しかし日本の弁護士は米国基準を満たしている訳でないから米国参入なし。これが医療など各方面で実施予定。TPPのかけ声高らか内容報じられていない。「同盟深化」で安全保障米国戦略と一体化と同じ仕組み。今開国=不平等条約受け入れでないか真剣に検討する時

孫崎享さんのツイートより


これでは名前を変えただけの、年次改革要望書です。いや、もっと強力なものになるかもしれません。今までは単なる要望書であったものが、法的な根拠を持つようになるからです。

最も恐るべき局面はひとたびTPPに参加してしまったら、TPP協定に反する規制をした場合、海外の投資家から政府が訴えられることも可能になるというのだ。その裁判も当事国の国内法廷ではなく、WTOや世界銀行などがもうけた法廷で行われる。こうなると、一国の国内政策もなしくずしにされてしまう。選挙で改革を望んでもTPP協定に反する政策は不可能となる。

村上良太:TPPを考える1冊 「異常な契約 TPP」(No Ordinary Deal)- THE JOURNALより


このような、ハイリスクを充分に踏まえた上で、菅首相は開国と叫んでいるのでしょうか。このように危険な交渉を渡り歩いていくだけの戦略と胆力を持っているのでしょうか。残念ながら、ぼくにはそうは見えません。

当事者であるアメリカが、公的サービスの市場化によって貧困大陸と呼ばれるほどの格差社会を招いたことは、堤未果さんの著書『ルポ貧困大陸アメリカ』に詳しく書いてあります。まさに目の前に、新自由主義が招いた社会の惨状を体現している国があるのに、そして国内でも小泉竹中構造改革への反省があるのに、すすんで同じ道を行こうとしているのは、まったく理解出来ません。

先日、TPPについての特集をNHKの番組でやっていたのでちらっと見ました。番組は、賛成派と反対派に分かれての討論という形式で進みました。賛成派の人たちは、とにかくもう進んでいるんだからやる前提で話をしないといけない、と根拠の示されないイケイケ論のように感じました。勢いですすめていいような類いのものなんでしょうか。反対派の金子勝さんが、冷静に説明していたのが対照的でした。いったいこれは誰にとっての益になるのかを、よく考えて、充分に議論した上で決めないと取り返しのつかないことになると思います。


最後に、地元なので山形県知事である吉村美栄子さんの会見を掲載しておきます。
この度の改造内閣で、TPP開国に向けての方向性がますますはっきりしてきたのではないかと考えられます。本県は食料供給県として、頑張っていきたいと申し上げておりますし、農業を再生して、県全体を活性化したいと考えております。また、日本全体の地方の元気再生ということに関して、一次産業を再生するということが鍵ではないかと思っております。(中略)もしTPPを進めるということになれば、具体的にどのような対策が講じられるのかというようなことを、はっきりしていただきたいと思いますし、現場からも、そのような方向のことも提言していく必要があると感じております。

平成23年1月17日(月) 知事記者会見 - 山形県ホームページより


・・・

追記(10/28):
最近知ったので追記しておきます。
鳩山政権が停止した年次改革要望書ですが、今年の2月には「日米経済調和対話」として同様のものが復活していたのだそうです。以下、小野昌弘さんのツイートより。
年次改革要望書は09年の鳩山政権成立とともに停止されていたが、本年2月より「日米経済調和対話」として復活。医薬・医療機器は中心項目のであり、医薬・機器の価格算定・医療IT・14日処方日数制限撤廃などにつき仔細にわたる要求が並ぶ。
日米経済調和対話が医療ITを重点項目においているこの時期に、戦略国際問題研究所(CSIS)が「医療ITと日本の医療課題への取り組み」として、東北地方の震災復興とからめて医療ITに関する政策提言を行っていることは留意すべき動きであると思われる。(日米医療政策プロジェクト政策提言
医療ITがどうして震災復興と関連するのか、資料を読んでも素朴に考えても、全くわからない。津波や地震のときに、電子カルテを使えるとは思えないし、実際に東海地震を想定した名古屋の病院での訓練では電子カルテの使用は不可能であると想定している。

なんだかもう、あ〜あ、って感じです。けっきょく菅さんは中途半端で辞めちゃったし、野田さんはそれ以上にアメリカべったりだし。いま振り返ると、あそこで辞めちゃった鳩山さんの責任は大きかったですね。(というか、辞めて責任をとるっていう永田町の文化はいったい何なんでしょう。)

TPPと年次改革要望書

TPPと年次改革要望書 2011.02.07 Monday [政治・メディア] comments(0)
このエントリーをはてなブックマークに追加TOPSY









url: http://yamachanblog.under.moo.jp/trackback/206
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...